秋の月は日々戯れに



「ば、絆創膏……!いえ、その前に消毒を。あっ、でも先に傷口を洗ったほうが……」


ひどく動揺して意味もなく部屋の中をウロウロと歩き回る彼女を、彼はベッドに腰掛けてしばらくぼんやりと眺める。

確かにヒリヒリして痛いことは痛いが、実際傷は軽くすりむいただけで、血も滲んでいる程度なので大したことはないのだが、彼女の狼狽えようは半端ではない。

「絆創膏ならそこの引き出しに」とか「消毒液なんて気の利いたものはありません」とか「傷口はとっくに洗いました」などと脇から口を挟んでみるのだが、まるで聞こえていない様子で、彼女は動物園の神経質なくまのごとく、ウロウロと部屋の中を歩き回っている。


「だ、大丈夫です。きっとまだ何か手は……。万が一どうにもならなくても、わたしが一生養っていきますから!」


ただのすり傷が、動揺しすぎた彼女の脳内でどんどん重症になっていく。

幽霊が一体どうやって養うつもりなんだと呆れてため息をついた彼は、徐ろに脱いで隣に放っておいたコートのポケットから二つの缶を取り出して、一つはそのままテーブルに、もう一つだけを手にしてキッチンスペースへと向かった。