秋の月は日々戯れに


幽霊でなければ、怒りで顔を真っ赤にしていたであろう勢いで、彼女が声を荒らげる。


「もう怒りました。あなたの心が太陽のごとく暖かになるまで、わたしが責任を持って手を冷やしてあげます!!」


恐ろしいセリフと共に駆け出した彼女から逃げるように、彼は家までの道をひた走る。

コンビニを過ぎて、公園も過ぎて、アパートの階段を二階まで一気に駆け上がり、よしあとはドアを開けるだけという段階で、鍵穴に鍵を差し込んだ瞬間に、体が横に吹っ飛ばされる。

派手に転ぶ音がして、彼はコンクリートの廊下にしたたかに頬を打ち付けた。


「わたしから逃げ切ろうだなんて、十億万年はや……」


脇腹にしがみつくような形で倒れた彼の上にのっていた彼女は、むっくりと起き上がった彼のすりむけて赤くなった頬を見て、大きく目を見開いて固まった。


「あ、えっと……。その……わ、たし…………」


珍しく狼狽える彼女の視線の先、ヒリヒリする頬に触れてみると、ピリッとした痛みと共に指先にほんの少しの血がついた。





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