秋の月は日々戯れに



「時間差で否定してくるだなんて、やっぱりあなたは性格がよろしくないです!それもこれも全部、手が温かいのが原因ですね。きっとそうに決まっています。ちょっと貸してください!」


ポケットの中の手を狙って飛びついてきた彼女を、彼はすんでのところで体を捻るようにしてかわす。


「嫌ですよ。せっかく温まったのに」

「温めたらますます心が冷たくなるじゃないですか!それはいけません。今すぐ手を貸してください!」

「嫌ですってば」


彼女が前から飛びついてくるから、必然的に彼は後退するしかなく、進行方向から徐々に遠ざかっていく羽目になる。

このままでは家に帰り着くどころか駅に逆戻りしてしまいかねないので、彼は一瞬の隙をついて彼女を追い越すと、そのまま足を止めずに駆け出した。


「あっ!妻を置いていくとは何事ですか」


非難めいた声をあげる彼女に、彼は足を止めないままで顔だけで振り返る。


「大丈夫ですよ。あなたが夜道に一人で立ってたとしても、通りすがった人のほうがビビって逃げ出しますから。例え変質者だったとしても。あと、あなたは妻じゃありません」

「前半が失礼極まりないですし、取ってつけたように否定するのもやめてください!」