秋の月は日々戯れに



「そう言えば、今日はいつもみたいに騒がないんですね。手が凍るー、心臓が止まるーって。珍しいです」

「騒いで欲しいんですか?」

「いいえ。たまには素直なあなたもいいと思います」


駅から遠ざかればそれに比例するように人通りも少なくなっていくため、今の二人の周りには、騒いだところで見咎めるような人はいない。

もうそろそろ本気で、謂れ無き罪で拘束されたままの手を救出してやろうと思ったら、振り払うより先にスッと彼女の手が離れていった。

それとほとんど同時に、彼の視線の先を上から下へと白いものが流れていく。


「雪です!」


子供のようにはしゃいだ声をあげる彼女に釣られるようにして、彼は顔を上げた。

言葉通り、灰色の雲から白い物がチラチラと舞い降りてくる。

それは、そっと差し伸べられた彼女の手を通り抜けて、はらりと地面に落ちた。

彼女は別段気にした様子もなくケロッとしているが、彼から見れば、それはなんだかとても寂しい光景だった。

次々と降ってくる雪に、彼女は懲りずに何度も手を伸ばす。