普段は男勝りで男にも劣らずに働き者のキンだが、この日のキンの様子はどうもおかしい。
「大丈夫?」
惣次郎はキンを覗き込むように見つめると、余計に顔が赤く染まった。
「わっ、顔も真っ赤だ」
「お恥ずかしい…胸もドキドキとしています」
キンは今にも心の臓がはち切れんばかりの一世一代の愛の告白を惣次郎に伝えている。
「…動悸までしてるだなんて、大変だ。
今、石田散…じゃなくて虚労散薬を土方さんから頂いてきますね!
ちょっと待っててください」
駆け出そうとする惣次郎の手をぎゅっとキンは握った。
何故、引き止めるのか惣次郎にはさっぱりと分からなかった。
剣術一本で生きてきたこの男には、恋なんて概念は存在すらしていなかった。
虚労散薬なら胸の動悸にも使えるだろう、惣次郎はキンの身体を気遣った。
「ですから、私は惣次郎様と共に生きていたいのです。
私は惣次郎様が好き、あなたの妻になりたいのです!」
恋に疎い鈍感な惣次郎もようやく察した。
「ごめんなさい、おキンさん。
私は修行の身ですから…。
お気持ちは嬉しいですが、私には剣しか生きる道はないのです」
惣次郎は低頭平身に頭を下げた。
キンは涙を流し、その場に泣き崩れた。
困ったなァ、と惣次郎は頭を掻いたが、小半時経っても泣き止む事は無かった。
「…すみません。
今後も変わらずによろしくお願いします」
消え入るような声で惣次郎は謝って、その場を離れた。
こういう時に一体どうすればいいのかなんて、惣次郎には分からなかった。
恋に破れて、キンはまるで生きた死骸になったような気分で、女から思いの丈を伝える時代ではない。
相当の覚悟で臨んだのだ。
(もう生きていけない)
キンはその晩、台所で短刀を使い、自ら喉に刺し自害しようとした。
「何をしている!」
倒れているところを水を飲みにきた永倉に見つけられ大事には至らなかった。
それ以降、キンの姿を見る者はいない。
