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文久三年九月十八日。
京都島原花街・角屋。
広さ四十三畳、角屋一の大座敷である松の間は酒宴が開かれ、たいそうな盛り上がりを見せている。
天候は生憎恵まれずに、今にも降ってくるのではないかと思うほど、空は雨雲に覆われどんよりとしていた。
「芹沢局長、どうぞ」
歳三は芹沢鴨に銚子を向けたが、芹沢はそれを断った。
「…今日は祝いの酒です」
歳三はそう言い再び銚子を向ける。
芹沢の腹心・新見錦が切腹をして鬼籍に入ってから五日。
「このような宴をっかく開いてもらって申し訳ないが、酒は辞めたんだ」
芹沢は新見が死んでから酒を絶った。
あれほど朝から酒の匂いを醸し出していた男が、ここまですっぱりと酒を呑まなくなったのだ。
「昔ね、義兄に言われた事があるんですよ。
酒は『薬になる酒と毒になる酒』があるってね。
今まで芹沢さんが呑んできた酒は毒になる酒だ。
寂しさを埋める為の…、ウサを晴らす為の毒の酒を喰らっていたんだ」
歳三はそう言うと、周りを見渡した。
始まりは十三人。
今や隊士は八十人までに増え、皆、筆頭局長・芹沢鴨を尊敬の眼差しで見ている。
「今のあなたには、こんなに多くの同志と御新造様に恵まれている。
これは門出の酒です。薬の酒ですよ」
それを聞き、感慨深い表情を芹沢は浮かべた。
そうだな、とフと笑い、芹沢はようやく歳三から酒をもらい一口呑んだ。
「…美味い。
こんなに美味い酒は初めてだ」
これが薬の酒とやらだ。
もう呑んでいても侘しくなる事なんてないだろう。
平山五郎がいて、平間重助がいて、野口健司がいる。
歳三や勇、京都残留以来の同志。
そして最愛のお梅。
「水戸だ試衛館だ、色々あったが、俺達ャ力を合わせりゃ怖いもんなしだぜ」
永倉はそう言って平山の肩を組んだ。
思い返せばこうして膝を交えてじっくりと飲むのは初めてである。
愉快な夜であった。
四人の侍達を除いては……。
