「夜分遅くに申し訳ない。
土方くんは来ていないかい?」
気配の正体は山南であった。
部屋に入ると、山南の表情は明らかに暗く、疲れたような血の気のない顔をしている。
「会津の気持ちも分からなくはないんだ。
今まで芹沢さんがしてきたことを思えば、早かれ遅かれ誰かがやらねばならない時がきていたでしょう。
…しかし芹沢さんは変わった。
今や以前の自分の欲望の為だけに暴れていた芹沢さんではない」
心の中は混沌たる気持ちで掻き乱されているが、山南は静かに言葉を紡いだ。
「主君の名を汚すような真似をしたとあってはもはや言い逃れは出来ない。
有栖川宮様の一件もそうですが、幕府に有栖川宮様が難癖をつける材料を芹沢さんが作ってしまったんです」
誰かが責任を取らねば、もっと重大な事となるかもしれないと山南は懸念していた。
「こんな事で私はあの人(近藤さん)を死なせたくない。
今の幕府に、日本に近藤さんは必要な人だ。
私は芹沢さんを……」
「芹沢を斬るぜ」
歳三は言葉を遮るようにそう言った。
山南の口からは、なんとなく聞きたくなかった。
汚れ仕事は歳三の役目だ。
「俺は〝鬼の副長〟。
お前は〝仏の副長〟でいてくれ、山南さん」
山南には耐えられなかった。
新見の時もそうだ。
全て裏で糸を引くのは、歳三と自分だが、その責を必ず歳三が負っている。
「土方くんばかりに汚れ仕事をさせるのは、もうごめんだ。
私は新見さんの件もある……。
討手に加えさせてください」
まるで泣きつくような声で山南は言った。
歳三はしばらく山南と見つめあう。
「……分かった。よろしく頼む。
じゃあ、この三人と左之助だ」
「源さんは?」
「源さんには近藤さんの側に居てもらおう」
翌日、歳三は勇に声をかけた。
「芹沢さんを祝う会?」
なにもこんな時期にやる必要はないだろう、と勇は言った。
会津に目立った行動を見せるのはよくない。
反省の色を見せねば、芹沢の行く先が危ないだろう、と懸念していた。
「こんな時だからこそだ。
新見が死んで、心中辛いだろう。
あの政変の一件での慰労会もあわせて是非やりたい」
「そうか、うん。そうだな」
仕切りは若手の平助と斎藤一。
そして野口健司に任せる事と決めた。
