だからこそ陰ながら八木家の一人の少女の旅立ちをそっと見送る為にも帳場はやりたい。
「一人では大変でしょうから、私も微力ながらお手伝いさせていただきます」
勇はそう芹沢に言った。
まるで妹を想う兄のような気分で芹沢は、勇に何度も何度も頭を下げた。
勇の思ったとおりに、帳場は大忙しだ。
物憂げな表情を浮かべ、喪に服す芹沢の姿を見て、勇は紙に落書きをした。
「なんだこれは?」
「髑髏(ドクロ)です。私は髑髏が好きでね、魔除けになるらしいんです」
差し上げます、と芹沢に手渡すと、芹沢はフッと笑い、勇にならい落書きを始めた。
不思議と絵を描くと、気持ちが落ち着いていった。
その出来上がった落書きを芹沢はジッと見ていた。
芹沢の描いた絵とは思えない、繊細で見事な画風である。
「セイはなワシが描く絵が好きだったんだ。
絵を描いて、見せては喜んでくれた」
深い溜息を吐く。
もうその笑顔も見れないと思えば遣る瀬無い。
「芹沢さん、おセイちゃんの為にも、京の町を…壬生村を守ってみせましょう」
「あぁ、そうだな」
いよいよ出棺の時であった。
壬生ではその際は槍を左手に持ち葬列を送る風習があるのだ。
「八木さん、その槍の持ち方は駄目だ」
芹沢はそう言うが、源之丞は「はて」という顔をした。
「槍は右手に持つものですぞ、持ち変えて頂きたい」
「お言葉ですが芹沢はん、こら壬生で古くからのならわしなんどす」
「習慣だとは言っても、間違った作法で見送るのはセイ殿が浮かばれん…」
しかし源之丞は持ち変える事なく、出棺の儀をそのまま続けた。
「芹沢さん、不幸の時だからあえて逆にするのかもしれませんぞ」
助言した勇の言う通りである。
死者には着物の合わせを左前にして着させるなど逆にする場合がある。
セイの葬儀は無事に執り行われ、終了した。
