「俺は承服致しかねる。
清河さんのやり方は気に食わねえが、あの人はあの人なりに国を想っているんだ」
勇はそう言い、断固拒否の姿勢を示した。
山南もその言葉を聞き静かに頷いた。
「近藤先生が反対というなら私も反対だな」
総司はそう言った。
主君は将軍でも天皇でもない。
近藤勇への忠誠心は総司にとって人一倍強い。
勇が右を向けと言えば、右を向き、白いものでも黒という。
総司にとって、勇は絶対なのである。
「私たちの最初の仕事が清河殺しじゃ、ゲンが悪いかもね」
源三郎までもがそう言うと、歳三は小さく舌打ちをした。
「分かったよ、あんた等がそう言うならやめよう」
歳三は渋々了承をし、それから誰も何も話さずに、一同は御所に背を翻し八木邸へと戻るのだが、芹沢が居住する部屋の前を通ると
「近藤さんや」
と芹沢鴨が声をかけてきた。
酒の匂いはしない、今日はまだ呑んでいないようだ。
こういう日は芹沢はまともだ。
「ワシは斬るぜ」
「芹沢さん、一体誰を?」
「決まっているだろう。清河八郎だ」
勇は狼狽眼で歳三を見ると、勇の代わりに歳三は「承知した」と小さく言った。
芹沢は満足したように笑い、歳三は乗り気ではない勇に、芹沢には悟られないように目で合図を送る。
(俺達はお前の思い通り清河を逃せばいい)
そこでハッとし勇は、語気を強めて言った。
「我等もそのつもりでした」
「しかし清河は北辰一刀流の免許皆伝。
一筋縄ではいかない相手だ。
それに同志を何人か引き連れて行動しているだろう」
歳三はそう言うと、うむと芹沢と勇は頷いた。
試衛館一派と水戸一派で手を組み、清河を討つ。そういう話になった。
芹沢は平間重助に勇の膳部を用意させた。
「イケる口だろ?」
勇は酒を飲めないが、ここで芹沢の機嫌を取らねば清河を死なす事になってしまうだろう。
勇はクイッと飲み干した。
「お見事」
「それでは機を見てあの寝返り者を叩っ斬ってやろうじゃありませんか」
勇はそう息巻いた。
浪士組初めての仕事は清河八郎、暗殺計画になってしまったのだ。