「…芹沢さん!」
勇は芹沢のもとへと向かうと、それに続くように池田も後ろからついて来た。
「おぉ、近藤さんじゃねえか。どうした?」
「宿場の者達は、この炎に怯えております。
消していただけませんでしょうか」
勇はそう言い頭を下げた。
しかし芹沢は頷くはずがなかった。
「今夜の俺は宿無しさ。
宿無しには宿無しのやり方ってもんがある。
こんな寒空の下では、尽忠報国の志を遂げる前に、風邪どころか凍死をしてしまうではないか」
もっと燃やせるものを持ってこい、とまるで軍配をあげるように鉄扇をあげた。
放り込まれていく宿場の木々は、みるみると炎に呑み込まれて大きくなっていく。
「全ては私の手違いです。
只今、早急に宿の手配をしていますので平にお詫び申します」
「お前さんの手違いだと言うのか」
ぱちぱちと小枝は快活な音を立て鳴り、鋭い火花を放っている。
「近藤、腹を切れ」
「それは出来ません」
お互い見つめ合う二人。
篝火に集まった宿泊者達はその様子を心配そうに眺める事しか出来なかった。
「芹沢先生に恥をかかせて、腹は切れんだと?」
平山が割って入ってきた。
「武士ならば腹を切って詫びろ」
そう言うのだ。永倉は頭にきて鯉口を切ったが歳三はそれを制した。
「ここは近藤さんに任せよう。
今が正念場だ、あの暴れ馬をどう抑えられるか…見届けてやるのが俺達の役目だ」
「土方くんの言う通り。
ここは堪えましょう」
今すぐ斬り捨ててやりたい、歳三も山南もそう思っていた。
勇は膝をついて頭を下げている。
「我等の命は今や公方様のものです。
このような事で腹を切る事は出来ません。
しかし、それ以外の事ならば何でも致します」
大篝火の焔に勇と芹沢は赤々と顔を染めていた。
顔は剃刀でも走らせたような疼痛がお互い走っている。
こうなったら意地だ。
それからどれほど時間が経ったかは分からないが、二人は静かに対峙していた。
総司達も戻ってきて歳三に耳打ちをした。
宿の手配がとれたようだ。
あとは勇と芹沢、どちらが先に折れるかの無言の戦いとなった。
勇は真っ直ぐ芹沢の目を見つめていた。
芹沢は瓢箪酒器を勇の頭上で逆さにした。
酒がドバドバと勇に降り注ぐ。
「もういい!」
芹沢はそう言うと、新見が「消せ」と言った。
「ありがとうございます!
早速、部屋に案内させて頂きます」
勇はそう言い頭を深く下げ、総司の案内によって芹沢は宿舎へと入って行った。
「俺らの大将は、俺達が思っている以上に大した男かもしれねえな」
歳三はそう言うと、一同は頷いた。
暴れ馬の芹沢を宥める事が出来たのである。
清河も山岡も、そして佐々木達も近藤勇という一人の男のことを深く胸に刻み込んだ。
