勇の目は信念に満ち溢れ、希望が詰まった綺麗な瞳をしていた。
まるで穢れもしらない夢をひたすら見ている子供のような目だ。
その目に見つめられると、清河は近藤勇という一介の百姓に頗(すこぶ)る強い好奇心が芽生えた。
「さて本題に戻りましょう。
実は呼び出したのは他でもない。
急なことだが、君を役付にしたくてね、道中先番宿割の任を与えようと思うのですが、いかがでしょうか」
突然の役付に勇は驚いた顔を浮かべたが、すぐに言われた事を把握すると大きな口の横に笑窪を作り頷いた。
「是非やらせてください!」
「よかった。貴方なら喜んでくれると思いました」
初めは八つ当たりで面倒役をかわせようと思ったが、そんな気持ちは今や木っ端もなかった。
歳三が勇にかける想いというものに、清河も少し乗ってみたくなったのだ。
「私なんかでよろしいのでしょうか」
「何を言いますか。
近藤さん、あなたに役目が無いのはそれこそ相応しくない。
やはりあなたの国を思う気持ちは本物だ」
「ありがとうございます!
一所懸命、責任を持ってやらさせていただきます」
勇は深々と頭を下げて、清河のもとを離れた。
試衛館一同のもとへと向かうと、勇は少しニヤついていた。
「清河さんはなんと?」
山南が訊ねると、勇はまた照れ臭そうに頭をかいた。
「実は道中先番宿割という役を頂きまして、皆とは京へ着くまで別行動となるが、しっかりやってきます」
「でもなんで急に」
総司はそう言った。
たしかに京へと行く前に部隊の再編成が行われるのは有り得ないだろう。
「たしかに総司の言う通り、こんな土壇場で変わるとは何かあったのだろうか」
勘の鋭い永倉はそう言ったが、勇も真意というのは分からない。
しかし頼まれたら断れないのは性分のようなものだ。
「俺も事情は分からんが、先を急がねばならない。トシ、山南さん、みんなを頼む」
「あぁ、総大将は周りのことは気にするな。
堂々と構えて己の仕事に集中してこい」
歳三はそう言うと、勇はホッとしたように顔をほこらばせて、池田と如水のもとへと向かった。
「道中先番宿割とはまた大変そうな仕事ですね」
源三郎は心配そうな顔をして、離れて行く勇の後ろ姿を見守った。
「土方くんでしょ?」
山南は見抜いたかのように言った。
「さあな」
歳三は誤魔化す時によくその言葉を使っていた。
歳三は嘘をつくのは苦手らしく分かりやすい。
「じゃあ近藤さんは俺らと違って支度金も多いのかね」
左之助は羨ましそうな顔をしながら言った。
「まったく、お前は金のことしかないのか」
と永倉にたしなめられていたが、五十両の支度金は人数超過のため用意出来なかったらしく、一人当たり十両となっていたが、左之助は意外にも文句ひとつ言わずにいた。
しばらくして清河の演説が始まりしばらくしてからいよいよ京へと向かう事になる。
「お前ら行くぞ。
これでようやく武士になれるんだ」
歳三は皆にそう言った。
体がみなぎりわたるような心持ちであった。
歳三の一言に、山南、総司、永倉、源三郎、平助、左之助は共鳴したかの如く顔を揃えて頷いた。
