勇が天然理心流宗家四代目を継いでから、義父母の周斎とフデは隠居をし、四谷舟板横町にてのんびりと寓居(ぐうきょ)している。
「近藤先生、粗茶ですが一服どうぞ」
源三郎は道場が休みの日は、周斎達の身の回りの世話をしていた。
性分なのだろう、源三郎は奉公人と思しきその仕事をまったく嫌がるそぶりも見せず、ましてや進んで行っているのだ。
「実は義父上、是が非でも浪士組に参加したいのです」
勇は浪士組の件について、周斎に許可を得ようと周斎のもとへと来ていた。
「勇、道場のほうはどうするんだよ」
「……」
勇は黙り込んだ。
問題はその道場についてである。
今や宗家四代目だ。
天然理心流を、道場を守る立場なのである。
「いいよ、行ってこいよ。
俺がしばらく道場を守ってやるから、安心して京でひと暴れしてこい!」
周斎は勇の肩をポンと叩いた。
しかしフデは不服そうな顔をしているのではないか。
「私は承服致しかねます!!」
フデは金切り声をあげた。
何かと勇の行動に否定的な言動をフデはとる。
「目を覚ましなさい、宮川勝五郎!
あなたは近藤家の養子に入り、腰に刀を一丁前に差し武士になったつもりでいるでしょうが、出自は変えられません。
あなたは多摩の百姓として生きていくしか道はないのです」
勇は唇を噛み締めた。
養子に入った頃に、フデに酷い虐待を受け身体を壊した勇は上石原村の実家に一時期戻ったこともある。
周斎も気性の荒いフデには尻を敷かれていた。
「ええい、うるさい!」
周斎は立ち上がった。
その声にフデは勿論、勇も目を大きく見開いた。
物優しい周斎が怒鳴り声を出すのを見るのは初めてである。
「俺たち多摩の百姓はなぁ、天領の地で生まれ育った。
幕府に忠誠を尽くすという事におかしな事などあるものか!」
これまで散々、フデが勇を虐待してきた事を周斎は知っている。
勇がどう乗り越えるか試練として、何も言わずにしてきたが、今回ばかりは周斎も引くわけにはいかなかった。
