「どうしても行くと言うなら、これを持って行きなさい」
ミツは胸に抱えていた一振りの大刀を総司に渡した。
「父上様の物だわ。父上様が必ず総司を守ってくれる」
受け取るとズシリと重みを感じた。
父・勝次郎は総司が三歳の時に亡くなり、顔さえも覚えていない。
その父の残影が今、手元にあるのだ。
「父上…」
その言葉を総司は生まれてからこのかた、初めてしっかりと口にしたかもしれない。
ミツはその場にしゃがみ込んだ。
涙が溢れて止まらないのだ。
女の涙というのはまいってしまう。
嗚咽を漏らしながらミツは頷くが、総司は困ったように頭をぽりぽりとかいた。
「絶対に約束して。
総司、あなたは斬られて死なないで」
「縁起が悪いなァ。
大丈夫ですよ、私に敵う相手なんていませんから。
参ったなァ、剣に生き剣に死にたいと思っていたけど、私を斬れる腕前の人なんていないんだもん」
総司は冗談っぽくそう言うと、ミツは目をこすりながら、ようやく微笑んだ。
「約束ね」
「うん」
二人はようやく微笑み合い、安息が訪れた。
(行ってきます姉上)
総司は心の中でそう言った。
それはミツの心にもしっかりと伝わっていた。
(行ってらっしゃい、総司)
ミツは道場を静かに出て行った。
総司は父の形見、加州清光(かしゅうきよみつ)の鞘を払った。
二尺三寸三分(70.6cm)。
刃文は中直刃で刀身はぎらりと妖艶な輝きを持っていた。
宜しく頼みます、と総司は加州清光に向かって頭を深々と下げた。
