生まれ故郷の話は思いのほか盛り上がりを見せずに、二人は口数がどっと少なくなり各々、酒を呑んだ。
左之助は酒をおかわりし、山南は会話の内容を何にするかを考えていた。
左之助に尊皇攘夷だの公武合体だのの政治の話をしても、きっと面白くないに違いない。
「そういえば原田くんの切腹の件について聞かせてもらっても良いですか?」
左之助は既に酔っていた。
話題の乏しさを山南は、これほど悔やんだ事はあるだろうか。
この話は耳にタコが出来るほど聞かされている。
たとえ山南が聞き出そうとしなくても、酔えば大抵左之助から話し出すネタだ。
「そんなのお安い御用さ」
そう言い左之助は、着物の合わせを大雑把に開いた。
腹には一文字、左腹から右腹にかけて切れた痕がある。
「中間(ちゅうげん)の頃にさ、上の連中に『切腹の作法も知らねえ下衆野郎』って言われたんよ。
頭にきて、その場で腹を割いたんだ」
そう言いながら腹をパンパンと叩く。
「そん時の上の連中の顔が面白くってさ。
もう青ざめちゃって、ざまあみやがれってな!」
そう豪快に笑う左之助を見て、山南は微笑んだ。
底抜けの明るさというのは、山南は好きだ。
触ってみろ、と言われて山南は切腹の傷痕に触れてみた。
まるで自分が腹を切ったかのように、腹の奥がキュッとする。
話は何度も聞くが、触るのは初めてであった。
「痛かったですか?」
「当たり前じゃねえかよ!
でも、俺の腹は金物の味は知っている。
そこんじょそこらの腹とは一味違うんだ」
「…切腹なんてしたくはないですけどね」
山南はそう言い酒をクイッと呑んだ。
そりゃあそうだ、と左之助はガハハと笑い山南もそれにつられて笑った。
愉快な夜だった。
左之助に政治の話はするつもりはなかったし、今夜はただ江戸での最後の夜を愉しもうとくだらない談笑は続いた。
