「『渡未咲来』」

急に名前を呼ばれた少女───咲来は目をしばたかせた。



「あ、ごめん。そこに書いてあったから」

笑って名前が分かった理由をネタばらしする。


少年が指を差したのは、さっき咲来が閉じたメモ帳の表紙だ。
ふりがなをふっているわけでもないのに、間違われずに読まれたことに驚いた様子だった。




「本をよく借りてた子だよね?
俺もよく本を借りるからさ、その名前よく見てて。
渡未さんって、君だったんだ」

咲来の顔が納得の表情に変わる。
思い出すように咲来も問いかけた。


「じゃあ、君が『佐波琢磨』君?」
「俺のこと知ってるの?」

名前を知られてるとは思っておらず、今度は琢磨が目をしばたく。


「君の名前もよく見かける」

咲来は事務的な口調で淡々と答えた。



「へぇー、覚えててくれたなんて意外」
「男子なのによく見かけるなぁって思ってた」
「あ、それ男子に対する偏見だよ」