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「ねぇ、君…何してるの?」
突然声を掛けられたせいか、少女は驚いて顔を上げる。
振り向くと、後ろから少年が覗き込んでいた。視線は少女の手元にあるメモ帳に落としている。
《いつものように『遺証』を書いていた母は、その日は屋上で書いていたと言いました。
そして、1人でベンチに座る母を見つけた父は、どこか他の子と違う雰囲気を持つ母が気になって声を掛けたといいます。》
「びっくりした」
「驚かせてごめん。
それ、何書いてるの?」
少年が指を差して尋ねる。
文庫本より少し大きめのメモ帳をパタンと閉じて、少女は笑って答えた。
「ちょっとね、趣味の一環」
「何の趣味?」
「さぁ、何でしょう?」

