空調がきいているため窓は閉めているが、それでも外の蝉の鳴き声は聞こえてくる。
「そういえば、今はみんな夏休みなんだね」
外を見ながら咲来が呟く。
「そうだよ。ってか、夏休み入ってもう2週間も
経ってるよ。今さら何を言ってるのさ。
君も早く退院しないと思い出作れないよ」
イスに腰掛けながら琢磨が言う。
咲来は、窓に向けていた視線をくるりとこちらに切り換え、おどけた口調で言った。
「簡単に言わないでよ。私だって好きで入院してるわけじゃないんだから」
「でもさぁ、毎日本を買って届ける僕の身にもなってよ。
今でこそ言われなくなったにせよ、初めは渡未さんの友達に『手を出してないよね?』ってしつこく訊かれてたんだから」
「あはは、それはお疲れ様。
蒼《あおい》は元々君のことが嫌いだったからね」

