「な、何を言うんですか、私は……!」
「よくおられるんですよ。こういった冗談をされるお客様が」

じょ、冗談?は?
よくいるわけないだろ!
喉元まで出掛かった言葉を無理矢理に押し込んだ。
つい数分前の店長とは思えないほどの厳しい表情がこちらに向いている。

「家に帰宅したくない奥様方がこういうことをされるんです。理由はわかりませんが私たちは何度もこういった事をされまして、その度に警察の方をお呼びしていたのですが結局自分の子……というパターンばかりでして」

んなアホな!?
そんな話、聞いたこともないぞ!?
大体自分の子を他人の子という母親がどこに……いや、いるのかもしれないけど今この事務所にいるのは独身40歳の嫁どころか彼女なし!子供なし!の真っ白な経歴の……うん、自分で言ってて凄く悲しくなってきた……

「分かってください、何度も警察を呼ぶとお店の評判にも関わってきます。私たちに出来ることはしましたし、貴方も父親でしたら子供を連れて早くお戻りになられたほうがいいですよ。今なら奥様だって叱るぐらいで済むでしょうし」

……か、完全に俺がこの子の父親になっていて、どうやら店長の頭のなかでは妻を怖がって帰りたくない夫……というレッテルが貼られてしまっている。

「いや、ですから私はこの子の……
「申し訳ございません、お帰りください」

その瞬間、赤ん坊に火が点いたように泣き始め、慌てて事務所から出た瞬間に扉を閉められた。

「ちょ、ちょっと!」

号泣したいのはこちらのほうだった……