* * *


「サキ!」

「あっ、樹くん!」



 今日も、2人はこの公園で。



 時間を決めていたわけではないけれど、会うことができた。


 何かの運命? なんて、漫画の世界みたいな。


 でも、そう思えなくもないのが不思議。



「時間決めるの忘れちゃった」

「そだね」

「ごめんね、明日はちゃんと時間決めよーね」



 風は吹かない。


 桜も散らない。


 昨日のように花びらがふわりと舞うことはないけれど、地面には桃色の絨毯だ。


 もう、終わりに近いのかもしれない。

 寂しいけど、物事にはいつか必ず終わりが来るって、ママが言ってたから。



 2人は喋る。


 色の禿げたブランコに座って。



 椅子の代わりとはいっても、この冷たいきぃきぃが耳につく。

 
 昨日よりも煩くなった? 気のせいかな。



 話す。


 昨日みたいに、他愛ない話を。



「あっ…あのねっ」

「ん?」



 樹は、風に舞う自分の髪の毛に触れながら、口を開いたサキの方を見る。


 対称的に、サキは、真剣そうな目つきをしていた。



「なに、どうしたの?」



 首を傾けて、もごもごするサキに催促をする。



「サキ……明日帰るんだ」

「…え?」

「お母さんの仕事が終わるから、明日ホントの家に帰らなきゃ。次来れるのはきっと…」



 —— 来年の春。



 サキは俯いて、伝えた。


 樹は、口を開かない。


 目をまんまるくし、驚いた表情を見せていた。



「ごめんね、樹くん、せっかく、お友達になってくれたのに……」



 目から水分が、今にも零れ落ちそうだ。途切れ途切れの言葉を紡ぐ。



「…ううん、それは、しょうがないよ」



 樹も、ゆっくり口を開く。



 目を伏せて、考えるように繋いだ。



 怒ってなんかいない。


 寂しそうではあるけれど、きちんとほほえんでいる。



「サキは悪くないよ、お家の事情だもんね」

「樹くん…」

「今日はいるんだよね? なら、いっぱい話そ!」



 最初のときのように、樹はにこっと笑った。



「…うん!」


 
 語らう、語らう。


 風が吹かない今日は、2人の声をどこにも持っていかず、ずっとそこに空気の塊として残っていた。


 言葉が、トーンが、そのときの気持ちが、耳と体に染みついて消えないように。



 どうでもいいことを話すけど、どうでも時間なんかじゃない。


 学校の授業みたいに、ためになることを話してなんかない。


 けど、何かきっと重要なんだ。



 思ったことを素直に言って、笑う。


 「友達」の会話というものは、こんなに、楽しんだと噛み締めながら。



 時間はあっという間に過ぎる。


 時なんてものは残酷で、流れるように過ぎ去って、楽しいお話の時間から、2人を現実に引っ張り戻していた。



 今日も、4時を知らせる鐘がなる。


 昨日も変わらない音なのに、今日は何故かシンセサイザ風に聴こえた。



「4時だ。4時までには帰って来なさいって、お母さんに言われてるんだ」


「あー、俺も」



 昨日も見た、ここの時計。


 またお世話になった。


 そして、また俺らを切り裂いた。


ああ、まただ。お前は俺の時間を奪うんだ。


 …なんて、時計は悪くないんだけど、思っちゃうんだよ。



ふぅ、と一息ついて息を吸って。



「また来年、来てくれるんだよね?」

「もちろん! きっと…ううん、絶対来るから!」



 2人は公園の出口で、ほほえみながら、手を取って。



「じゃあ、またね、来年、この公園で!」

「うんっ絶対ね!」



 そんな声をかけて。


 なんだか泣きたい気持ちを押さえ込んで、2人は大きく手を振った。



 笑って、笑って。






 出会って2日目。


 それでも2人は、学校の友達なんかよりも深くお互いを知っていた。


 自分のこと、家族のこと、学校のこと何もかも、今の間に話していた。


それについては、「最初の友達だから」としか、思っていなかったかもしれない。


 でもきっと何か、目には見えない繋がりがあるのだろう。



 2人が出会ったのは、ただの偶然ではない。



 素晴らしい運命だったのだ。