「いつものよろ~。ってさ、お前今日空いてる?」

「今日? ここ閉めた後なら空いてるよ」


いつもの。彼も私と同じ、サンドウィッチのセットメニューを頼んでいる。
コーヒーを入れながらそう話すオーナー。


他のお客さんもいるから、店内が物凄く静かなわけではない。
だけど、お店自体がこじんまりとしていて、更に距離が近い所為か、二人の会話はよく聞こえた。



「お、なら花連れて行くわ」

「花? なに。彼氏は」

「別れたってよ。よかったな」

「……別に」


私は最後の一口をコーヒーで一気に流し込むと、席を立つ。
それ以上、会話を聞きたくなかったからだ。


気付いたオーナーが会計の為に、こちらへと近付く。


「ありがとうございます。えっと、五百八十円です」


私は財布から千円札を取り出すと、受け皿に置いた。


「お釣りになります、ありがとうございました。またどうぞ」


少しだけ不機嫌そうな声のオーナー。
お釣りを受け取ると、私は「ごちそうさまでした」と言って店を後にした。