「本気、だよ」


「1回こっち向けよ」



向けるはずなんてなかった。
永人の顔をいま見たら、認めたくない思いを認めてしまいそうで。

その思いを口にしてしまいそうで。



「いやだ」


「……っ、昨日のことなら悪かったよ……。俺、本当に覚えてなくて」


「その事は、事故だし忘れるからもういいよ。とにかくあたしは親友の好きな人と嘘でも恋人にはなれないから……じゃあね」



永人に口を挟むすきなんて与えない。
何かを言われる前に走った。



「……ごめんね」



永人には聞こえないけど。
それでもいいから謝りたかった。

永人はあたしのために、嘘の恋人を名乗り出てくれたのに。
いまあたしがしてることは、その永人の思いやりを無にすること。

それでも、誰かを傷つけてもいい。
親友のことだけは傷つけたくはなかった。

いくら日奈子が、好きな人があたしの方を見てても大丈夫だと言っても。
また、あんな思いをするのではないかという、恐怖感しか、あたしには湧いてこない。