「永人」



意を決して、永人の背中に向かって声をかける。



「千花……」



ビクッと肩を揺らした永人が振り返って、気まずそうにあたしの名前を口にする。

久しぶりかもしれない。
永人に名前を呼ばれたのは。



〝千花〟
永人にそう呼ばれるのが好きだった。
永人の呼ぶ〝千花〟って声が好きだった。

たった１ヶ月なのに、すごい長いことあたしに永人の視線が向けられていなかった気がする。



「どうしたの？こんなとこで」


「千花だって、どこ行ってたの？」


「あたしは瑠衣くんにお返しもらってた。車で」


「そこにいた車か……」



永人が思い出したように言って、顔をしかめる。



「永人？」


「あいつ、うちの学校の教師だろ？ちょっと考えてなさすぎだろ」


「え？」



永人はあたしの心配をしているのだろうか。
それとも、馬の合わない瑠衣くんのことを言っているだけなのだろうか。