俊サイド



俺は自分の容姿とそれだけで寄ってくる女子が大嫌いだった。



























俺は春風が吹く河川敷を真新しい制服を着て歩いていた。




満開に咲いた桜が瞳に映る。





そして無意識に独り言を漏らした。





「もう…中学生か…」





俺は周囲からの視線を感じながらも、そのまま歩いた。






学校に着くと、入学式で友達になった和に声をかけられた。







「ヨォ俊。入学式の翌日にしけた顔するなよっ!」







和は笑いながら言う。







「わかってるよ。でも笑うとさ…」







「あーハイハイ。俊は笑うだけで女子が寄ってくるからな」





俺は俯きながら頷いた。





「大丈夫だって!小学校の時に何があったのか知らないけど、俺がいるから!」




胸を張っている和に頬が緩む。和の言
葉に心が温まった。ありがと。和。





そして、後悔先に立たず、やってしまった。




不覚にもホッとしたのか、笑ってしまった。トドメを刺すように周りの女子が騒ぐ。ハァ…





「キャー‼︎俊くんが笑った‼︎」

「やっばい。笑顔が眩し過ぎて死ぬ」

「彼氏にしたいNo.1だよねー!」

「カッコイィ!イケメンすぎ!」







はああぁあぁあーーーー‼︎‼︎






ああ出たよ。女子の迷惑なコイバナ。






ほんっとに、うるさい。でも、口には出せない。






「和、早く行こ…」






俺は女子を無視して、驚いている和の制服を引っ張った。





「あっ、ああ。……それにしてもすげぇな」





「何が?」






「お前の女子の人気度。少し笑っただけで女子のあの騒ぎよう。ただ、ちょっと微笑んだだけでだぞ?」







それな。俺も人生の中でそれが一番の謎だ。







「まぁ確かに、お前の顔ってスッゲェ綺麗だもんな」





そう言ってずいっと、顔を近づけてきた。







「あぁー!なんでお前はそんなにモテんのに、俺はこんなにモテないんだ?」






そう叫んで怪訝そうな顔をする和。







「おい…!あんま叫ぶなって…!」





女子が寄ってくるだろ…‼︎






「はっ。いいよな、俊は!俺なんか、好きな女に自信なくて告れもしない…」






… はっ⁈和って好きな女子いたの⁈






「えっ⁈誰誰⁈気になる⁈」






そう言うと、和は顔を真っ赤にして






「うっせぇな!」







と言った。顔、赤っ!林檎みてぇ。




「ってゆーか、俊ってそーゆーこと気になるんだ?」





は?…んー。そう言われると…




「…気になるかな…?」



…んー、なんてゆーか、憧れ的な感じなんだよね。




俺は誰かに恋愛感情を抱いたことないから…かな。





………もし、俺が普通の容姿で、普通に恋をしてたら…。




ははっ…。そんなこと、あるわけないのに。




ときどき、俺は夢を見てるんじゃないかって思うことがある。



夢から覚めたら、俺は普通に恋に落ちて…。




なんて、ただの空想の世界の話だけどねっ!






「で⁈で⁈誰⁈和の好きな人って!」




「…食いつきようがすごいな…」




和、若干引き気味。




「それで⁈誰なっ……っ⁈」




「あっ、ごめんなさい…!」



その声と同時に、背中に何か当たった。



その声の主は俺が振り返ると、顔を上げた。








正直、自分の目を疑った。




そこに、何があったのかわからなかったから。






俺にぶつかった人は、一言で言うと、そう。












俺が見たこともないくらいの、ものすごい美少女だった。







長い黒髪。小さい顔には、大きな二重の瞳。鼻筋が通った鼻。唇は薄くて桜色。細い体。




って、何そんなところ見てんだよ!俺!






すると…




「怜衣ちゃーん!遊ぼーよ!」

「怜衣!今日の天気はいい天気だね!」

「日向さん‼︎今日も美しいです!」

「日向さーん!リュック重いでしょ!俺、持つよ!」





ぅわっ…!



なんだこれ…。すごい男の数…。ざっと、15人くらいか…?






れい…?ひなた…?




この人の名前か?



そして、未だに俺の下にいる、ひなたさん?はオドオドしている。




「あっ、えっと、あのーその…」



なんて、困った顔をしている。




「声も可愛いね!」



そして、男の野次馬。





って和!忘れてた!



振り返って和を見ると、和はなんとも言えない、複雑な表情をしてた。



怒りと…焦り…そして、戸惑い…。




「和!助けようよ!」



「…いや、早く教室行こ」



「なんで⁈彼女、困ってるよ⁉︎」



「っ‼︎だったら!お前が助けてやればいいだろ⁈」




どうしたの?なんで…?



「……っ!わかったよ!」←やけくそ。



俺はそう言うと、彼女の腕を引っ張った。



「こっち来て!」



彼女は急なことで驚いたのか、大きな目を見開いた。




あれ?俺そういえば、女子が嫌いなはずなのに。




なんでこんな名前も知らない人を助けてるんだ…?




女子に触られるの嫌なのに、自分から腕を引いている…




もしかして…もしかして、これは、




矛盾ってやつか!←ちがーう☆




だってだって!




自分は触れられるのは嫌なのに、自分から触れちゃうんだよ⁈





これはどうみても矛盾ってやつだ!←Mr.鈍感。





そうして彼女の腕を引いて、走って、走って、走りまくって着いたのは、学校のすぐ近くの公園。




流石に学校外までは追ってこなかった男達。




はぁはぁ、全力疾走したから流石に疲れた。



「あっ、あのっ!ありがとうございますっ!」




はぁはぁと息を切らしながらも、ペコリと頭を下げるひなた?さん。



そう言えば、まだ名前知らないんだった。




「あのっ、名前なんて言うんですか…⁈」



思い切って言ってみたけど、なんでこんなに心臓がドキドキするんだろう?



「日向…日向怜衣ですっ!日向ぼっこの“日向”に、怜悧の“怜”に、衣服の“衣”で怜衣です!」





満面の笑みを浮かべる日向さん。



っつ!



やっばっ…つ!何これっ⁈


胸が苦しくて、うるさくて…。



「えっと、あなたの名前は…?」




えっ…?俺の名前知らないんだ…。




なんか、他の女子とは…違うな…。




「高橋俊です!あっ、ちなみに俊は俊足の俊ですっ!」




「「……………」」




…沈黙が苦しい…。




次の瞬間、救世主がやって来た。





キーンコーンカーコンキーンコーンカーコン。






ビクッと2人の体が揺れる。





「…あはっ、はははっ…!」




えっ…?



目の前で日向さんが笑っている。



とても眩しい満面の笑みだった。



「ど、どうしたの…?」



「だって、入学式の翌日から遅刻なんて、私たちすごい問題児だね!」




「っ…!…はははっ!確かに!」




2人の間に笑いが生まれる。




あぁ、なんでだろう。こんなにも楽しいなんて…。





「じゃあ、私たちもそろそろ遅れるとまずいから戻ろうか」



「うん…!」



あれ…?なんか…名残惜しいな…。



なんでだ?





?????