「…………」



しばらく沈黙が続く。聞こえてくるのは、息づかいだけ。


わたしは質感のいいシーツをぎゅっと握りしめて、言葉を待った。



「俺……仕事、面白くなってきた。本当は家に仕事持って帰りたいし、帰る時間とか気にしないで集中したい」


「う、ん」



わたしも喉が詰まって、うまく返事ができなくなる。



いつも寝ているのとは段違いに広いベッド。


お互いの距離は遠くなるけど、言葉と心の距離を近くするには十分だったらしい。



「よねこも、本当の夢、あったよね」


「何言ってるの。わたしの夢は、なおくんのお嫁さんだよ!」


「こんな俺の? 本当になりたいの?」


「やめてよ。なおくんにもっと好きになってもらえるよう、いいお嫁さんになれるよう頑張るから」


「……俺も、いい旦那になろうって頑張ってたんだけどな。でも、頑張れば頑張るほど、違うように思えてきて」


「……っ」


「人の気持ちって努力してなんとかするものじゃないじゃん」



気がつくと目尻から涙がこぼれていた。


空しい気持ちが込み上げた。


今までなおくんのために頑張っていたことは何だったんだろう。



「本当にしたいからこそ、自然に頑張れるものじゃん」



だけど同時に、揺らいでいた彼の言葉に、はっとさせられてしまった。



最初の頃は楽しかった。


新婚さんみたいで2人とも浮かれていた。


それから時間が経って、なおくんは熱中したいことが変わったんだ。


家庭よりも、今は、仕事。


だからわたしを一番に優先できなくなってきたんだ。



本当は、今の状態に疲れてきたわたしも、うすうすと感づいてはいた。



わたしは、彼にとっての"お嫁さん"


なおくんは、わたしにとっての"旦那さん"



役割を決めたわたしたちは、まるで終わらないおままごとを続けているみたいだ、って。