それにしてもやっぱ上手いなこいつ。
色の濃淡だけで海と波を立体的に表現している。わたしのタコが本当に飛び出してきそうになるほど。
「今年、部の後輩たち何やるの?」
「中庭でライブペインティング。俺ら3年も参加するけど」
「へー楽しそう」
「お前も来れば?」
「わたしは絵から完全に引退しちゃったからな。ミシマはさぁ、美大志望?」
「うん。最近受験用のデッサンばっかしてる。だから久々自由にやれて楽しい」
わたしも、楽しい。
久々だからって意味だけじゃなくて。
「俺、こうやってお前と遅くまで残って描くの結構好きだったんだけど」
ミシマは描きかけの作品を見つめたまま、そうつぶやいた。
「はい?」
「ま、そいつは人妻になるらしいけど。もったいない能力全部捨てちゃうみたいだけど」
え……、とミシマを見た頃、すでに彼は黒板に戻っていた。
わたしも小走りで黒板に向かい、再び作品作りに没頭した。
それから1時間後。『OCTOPUS ジョーズに焼けました』と一言ダジャレをレタリングして、完成させた頃。
「そろそろ閉めるぞ~。って、ぎゃーーー! お前ら才能の無駄遣いしすぎだろ!」
見回りに来た先生が、わたしたちの作品に腰を抜かしてくれた。
よっしゃー! とお互い笑顔でハイタッチしてから、教室を出た。

