ねぇ、その電話……もしかして、この前ご飯に行った女の先輩?
今、わたしと話しているよね?
どうしてそっちを優先するの?
わたし、なおくんのお嫁さんになるんだよ。どうしてわたしを一番に優先してくれないの?
なおくんが携帯を耳にあてた瞬間、わたしはパン! と彼の手を払っていた。
重たい衝撃音とともに、携帯が床に転がった。
――びっくりした! え、何?
床にぶつかって、かすかに聞こえたのは、女の人の、声。
なおくんは携帯を拾い、
「すみません、後でかけなおします」
と、静かなトーンで言い、終話マークをタップした。
「どうして、電話、出るの?」
いつの間にか、涙はひっこんでいた。
自分でも驚くくらいの冷たい声が出てしまっていた。
「お前こそ、いきなり、何」
「今、わたしと話してるんじゃん! そんなに急ぎの用事なの?」
「職場の先輩だから。仕事のことかもしれない」
「仕事、仕事って、そんなに大事? わたしよりも? わたし、なおくんのお嫁さんになるんだよ?」
「……俺だってお前養うのに必死なんだけど」
わたしが大声でわめいているのに対し、なおくんは深いため息をつく。
なんなのその態度。文句を言うな、ってこと?
どうしてわたしだけこんなに我慢しなきゃいけないの?