「え……」


「土日に、違うとこ行こう」


「…………」


「よねこ?」



動き出さないわたしを不思議に思ったんだろう。


なおくんがこっちに向かってくる足音がした。



「そっかぁ。しょうがないよね、仕事だもんね」



慌ててその音をかき消した。


自分の声が揺らいでいたことに気づいた。



「本当、ごめん」



なおくんは謝りながら、しゃもじを拾ってくれた。


ぽたりと、自分の涙が床に落ちた。



「泣くなよ」


「ごめんっ、楽しみに、してたから」



そう伝えると、後ろから頭を優しく撫でられた。


さらに涙が、想いが、あふれだしそうになる。



それだけじゃ足りないよ。ぎゅっとしてほしいよ。



「なおくん」



キスして? と伝えようとしたけれど。


ブー、ブー、と携帯の振動音に邪魔をされた。



「あ」



わたしから彼が離れていく。


携帯はずっと振動を続けている。メッセージじゃなくて電話らしい。



でも、それは会社用の携帯じゃない。プライベート用のスマホだ。



「……っ!」



がっかり、悲しい、じゃなくて、怒りがわき出してきた。