『遅くなる。20時すぎになりそう』


『りょーかい♡無理しないでね』



今日のなおくんは残業で遅くなるらしい。


じゃあご飯作る前に家事をしておこう。



洗面台の鏡には、歯磨き粉の白が水玉模様のように付着していた。


これ、つけたの全部なおくんだよね。もう。


しかもチューブ倒したままにしてるし。出にくくなるから立ててっていつも言ってるのに。


ワックスも棚じゃなくて脇に置かれたままじゃん。



洗面台をごりごりと洗い終えると、ピーッと洗濯機が音を鳴らした。


かじかむ手を我慢しながら重たい洗濯物を引っ張り出す。


もう……またズボンもパンツも靴下も裏返しにしてる。


いちいち裏から表へとひっくり返して、バサッと慣らしてから干していく。



――はぁ。



ため息をつきながら、浴室乾燥のボタンを押した。



どうしてだろう。


一緒に暮らし始めた時には、全然気にならなかったのに。


毎度同じような直しを繰り返すごとに、イライラがつのっていくのは。



って、やばい!



フライパンに火をつけてぼーっとしていると、卵の表面が揺らいでいた。


慌てて冷や飯と具材を入れて、へらでかき回す。


鶏ガラスープと塩コショウで炒め、ほんの少しオイスターソースを垂らす。



卵の固まりが大きいし、ご飯もパラパラにならなかったな。


まあなおくんにとっては食感なんてどうでもいいんだろうけど。



どうしよう、なぜか泣きそうだ。