「早くお家の中に入りなさい...!」
いきなり強引に私の手を引っ張るお母さんは、心底嫌そうな目で、チラチラと流のことを見ていた。
流と私を引き離したい。
出来ることなら関わらないでほしい。
お母さんの心は、その思いだけでいっぱいだ。
確かに流は、見るからに怪しい雰囲気を漂わせている。
黒髪なのに、全然真面目に見えない。
真っ黒なスーツは、逆に彼の悪さを煽っているようにしか見えない。
ーーでも、でもね。
「ムギ...紬のお母さん、少しだけお時間いただけないでしょうか?」
私を無理矢理家の中に入れ、流を無視したまま、お母さんが閉じようとしたドアを、流が逞(たくま)しい腕で抑えた。
「...っ!あなたと話すことなんかなにもっ」
流の行動に驚きを隠せてないみたい。 お母さんの声が裏返る。
「俺はあります。ムギと俺の関係を認めてもらえるまで、絶対にここを離れません。」
「なっ!?」
「なんだったら、玄関の前に俺、住んじゃいますけど。それでもいいんですか?」


