「ムギ、お前の親に挨拶しにいこう」
流があまりにも真剣な顔で言うから、一瞬言葉を失った。
ふと、目を横に向けると。
いつの間にか買われてあった花束が、真っ黒なテーブルに色をつけていて。
その横には美味しいと評判がいい有名店のバームクーヘンが箱の状態で出されてあった。
「...挨拶ってなに?この年で結婚するわけじゃないよね?」
「高校3年生のこの時期に、結婚なんかするわけねーだろ。
...いや、できるなら今すぐしたいけど。 それよりもまずはお前の親に認めてもらう方が先だ」
「...っ!あの二人に認めてもらうとか、そんな事どうでもいいよ!!
言ったじゃん...!私嫌いなのあの二人!!親でもなんでも...」
「...じゃあ尚更だろ?」
「...え?」
テーブルに置かれてある花束を手に取り、流は私の目の前に差し出す。
ひらりと花びらが床に落ちていく。
どんなに花が散ろうと、流への思いだけは枯れないことを知っていたから...だからーー...。
「これ以上お前の傷つくところを見たくないんだよ、ムギ」
彼が優しく笑う度、胸が締め付けられるこの感情を愛と呼べないのなら。
もう何も望まないと...勝手に溢れ出す涙に、いつもの頑固な私はもういない。


