朱鳥の病室を出たあと、俺は、職員用のトイレに篭もり、ひたすら涙を流した。

朱鳥の笑顔と久翔の言葉が浮かぶ。

医者だから、何回もこんな経験あった。

いろんな人の死を見てきた。

自分でも、死の宣告をしたこともあった。

………………でも、なんで…?

なんで、悪いことをしていないのに苦しんで死んでいく人がいるの?

逆に、なんで、人を傷つけた奴らは苦しまないの?

朱鳥ばっかり苦しんで……

苦しむのは、普通、朱鳥を傷つけたおじさんだろ??

なんで、朱鳥は、そうやって1人で辛いことを全部背負わないといけないんだよ……

なんで、朱鳥は苦しまないといけないんだよ…………

朱鳥は、なにも悪いことしてないだろ!?



そんな思いばかりが胸に込み上げる。

朱鳥…………

なんで、朱鳥はそんなに苦しい思いをしているのに、笑えるの?

なんで、なんでも笑って許してくれるの?

なんで、こんな理不尽な世界を、"幸せ"って言って生きれるの?

確かに、家族で楽しんだ時間は、とても幸せだった。

だけどさ、沢山辛い思いをしても、沢山涙を流しても、朱鳥は必ず最後には笑ってくれる。

熱で苦しみながらも

"幸せ"

って笑ってくれる。

…………俺は、そんな朱鳥に惹かれたんだ。

……だけど、その朱鳥の優しさに、俺は胸を締め付けられる。

朱鳥、ごめんね……

ごめんね、こんな俺で……

ごめんね…なにも、してあげられなくて……

ごめんね…………朱鳥…