「羽月!ちゃんと荷物持ったの?」
「大丈夫、プリントチェックしていったから!」
中学時代から引っ張ってきた、パステルカラーを主に作ったミサンガを学生カバンにつけた。
高校生になっても遊ぼうねと約束して、いつも一緒だったグループの中でミサンガを交換していたのだった。
今年から新しく高校生デビューを果たした中村羽月は、少し余裕をもって家を出た。
進級祝いとして買ってもらった白色のスマートフォンの電源をつけると、思わず頬が緩まる。
これで新しいクラスメイトともっと仲良くなれる。
そう思うと、無意識に上機嫌になってしまう。
家から高校まではさほど遠くない。電車を使わず歩いていけるものだから、簡単だ。
これは羽月にとってとてもよいことのようだった。
綺麗に舗装された歩道を歩く。
左にはコンビニや家が立ち並び、右には様々な車が通っている。
前日雨が降っていたせいか、蒸発しきっていない水たまりもぽつぽつとあった。
新調した靴が濡れてしまわないようにと避けて歩く。
遠くに見えるのは、目的地の青葉学園高校。
毎年綺麗に咲く桜の花が凄いらしく、生徒達はお花見をしていたりするらしい。
楽しみだなぁ、と胸を踊らせながらも、それに反対して少し気がかりなことが浮かんだ。
小学生のころ、特に仲良くしていたあるひとりの男子の存在だ。
その子の名前は__相澤颯太。
背が大きく、一際目立つ子だった。
二重まぶたにつり目、頬上にある小さなほくろが特徴的。
世でいう〝ツンデレ〟の部類に入る性格だった。
はきはきとしない弱気だったわたしを引っ張ってくれる、頼もしい存在。
中学になると同時に引っ越してしまい、姿は見なくなった。
たまに見せる照れた顔を思い出してしまうのだ。
今はどうしてるんだろう。と軽い気持ちで思いながら、青葉学園高校の校門を通った。



「わぁ…!綺麗!」
学校外からは別の木に隠れて見えなかったが、奥へ進んでいくと立派な桜の木が何本も立っていた。
学校へ向かう他の新入生も、思わず見とれてしまっているようだ。
ふと肩についていた花弁を取って、校舎を見た。
少し古いが、運動部が盛んな由緒ある学校だ。
すれ違う教師に挨拶をしながら、上機嫌のまま歩いていった。