掴まれている手を引っ張られて、抱きしめられる。


懐かしい匂い。


大好きだった。



この腕が大好きだった。





苦しかった思い出が蘇り、涙が溢れてくる。


つらくて、つらくて。



どうすることもできなかった恋。



なにもできずに終わるしかなかった恋。






「泣かないで、琴乃」


「ん……ふぇ……っ、」




懐かしい体温と声と匂いに、昔のことが流れるように思いだされる。


会いたくなかった。




もう会えないと思っていた。



会うべきじゃないから。






大好きだった、初恋で初カレで、つらすぎる苦い記憶を作った人。