家の中に入ると、奈々美がいつもつけている甘い香水の匂いが鼻孔をくすぐった。
「あ、ドライヤーしてくるから、適当にテレビ観ててー」
「はーい」
短く返事をして、遠慮なくリビングに足を運ぶと、温かい空気が身を包んだ。
コタツに足を入れると、リモコンに手を伸ばして、県外で起きた事件をぼんやりと観る。
チャンネルを変えると、美味しそうな料理番組が始まったので、すかさずメモ帳をリュックから引っ張り出した。
毎日料理をしていれば、こういう番組がいつ始まってもいいように、必ずメモ帳を手元に置くようになった。
思わず身を乗り出して、料理番組に釘付けになっていると、後ろから呆れるような笑い声が聞こえた。
「絢華ってば、もう主婦じゃん!」
「はは…だよね、自覚してるよ…」