「その“当たり前”だったことに、今でもイラついているんですか?」
「えっ…?」
あたしの言葉に顔を上げた美湯さん。
みんな、“当たり前”という言葉が、どれ程大事なのか後悔してから気づくのだ。
「あたしは…、“当たり前”の生活が壊れたときに気づきました。あんなにもあたしのためを思って叱ってくれたお母さんの声が、ある日聞けなくなった瞬間…分かったんです」
今はもう…、お母さんはあたしに叱らない。
仕事ばかり頑張るようになってしまい、お母さんはあたしを見る余裕がなくなったのだ。
そうさせてしまったのは、あたしとお姉ちゃんなのだろう…。
「…貴方のお母さんが自分を叱ってくれるときは、貴方のことが好きな証拠なんです。だから少しでもいいので、また話してあげてください」
清水さんは、美湯さんと話せる日をずっと待っているのだ。

