「君を抱くことはできない」

誠実な貴方はそう言った。


私との間に未来はない…それがわかっているから、私を引き返させる為の優しさ?

ううん…そうじゃない。
貴方の隣に寄り添う彼女を、悲しませない為の誠意。


でも…もうどっちでもいい。
私はとっくに悪女に成り下がっているから…。
もうあの頃の、泣いてばかりの少女じゃない。
だから、怖れないで私を傷つけて。




「お願い…」

私は彼の首に腕を巻きつけ、胸に頭をこすりつけた。
彼のスーツの柔らかな生地の感触。
その深い深い紺色の海に、私は自ら溺れて行く…。