「あ、あのさ…、名前聞いてなかった」

後ろからかけられた声に振り返る。

「槇野です。槇野美織」

「そ。槇野美織ちゃん、その…シッポ…」

「え?シッポ…?」

「えっと、何だっけ。あ、ポニーテール!先っぽから雨の水、滴ってる。ちゃんと拭いとかないと風邪ひくよ」

私は後ろで結んだ髪の先を手で触ってみる。確かに絞れそうなほどの雨水を含んでいた。

ポニーテールが思い付かずに、シッポだなんて…。
廊下を走って行く彼の後ろ姿を、私は苦笑しながら、時間も忘れて見送っていた。