彼がサイドブレーキを外し、アクセルを踏んで車が動きかけた時、私は弾かれたように車に駆け寄り、窓を数回叩いた。

急ブレーキを踏んだ彼が、半分開けていた窓ガラスを全開にして、少し驚いた表情で私を見る。



「幸…。幸せになってね」

彼は真っ直ぐに私を見つめた後、ゆっくりと目を細めて、穏やかな笑顔を向けてくれる。


「ありがとう。美織も…絶対に幸せになれよ。
それと…一つお願いしていいかな…」

「…ん?何?」



「笑って。美織の笑顔、覚えておきたい」




私、今度こそ、うまく笑えたかな…
あの頃よりずっと大人になったから、きっと大丈夫…。