彼は思い出したかのようにケータイを手に取り、耳を傾ける。
「その、したい。死体があるんだ」
彼の目は足元に流れる彩を激しく乱射させている。
「あ、あははは。まぁ、いいや。うん。お前、早く来いよ。――――……ずっと、待ってるから」と、言い、ケータイから手を離す。
脳はまた蒸発をし、激しく眩暈を繰り返す。グニャリと目先から真っ直ぐ混ざっていき、くっきりとした湾曲が映える。
悍ましくもこれが現実。
ユートピアなんていう言葉だけの理想郷よりもずっとずっと魅力に感じるもの。
それは、死体。
「……あ」
頭を振る。目の奥に鈍い痛みが鳴る。息が上がっている。
恐怖だけがある目の前の世界に彼はただ興奮をする。
彼は息を激しく鳴らしながら、座り込んだ。
また、彩に目を向けてから手の平を見、いつも通り笑う。
彼らが望むように笑ってみせる。
「はぁ、はぁ、ヒ、ヒヒ……ぁ、し、したいなんてはじめてみた……、こんなの、変だ……。あ、あは、はははは、さいこー……、ぁ、アハハハ」
激しくなる息を飲んだ。
息を飲んでもなお激しく鳴る鼓動。彼の指先は死体の首を沿い、そのまま流れるように締めた。
彼が興奮するように、まだ流れていく彩。彩は彼のことをずっと見ている。彼は死体ばかりを見ているというのに。
「どーしよ……」
次第に黒に飲み込まれ、青を殺していき、流れることを止めた。
