次の日、午後から学校に行くと先生に呼ばれた。

「綿月さん、少しいい?」

優しそうな風貌と優しそうな口調が相まって生徒にも先生にも人気の吉田先生。

「はい。」
「ゆっくりでいいから、屋上に来てもらえる?綿月さん何時もそこにいるからそこのほうがいいかなって思って。」
「分かりました。」

ゆっくり屋上に行くとそこには吉田先生と校医の水沢先生がいた。

「お待たせしてしまいすみません。」

軽くお辞儀して彼女らの前に立つ。

「いいのよ。それで話なんだけど。」
「身体のことと高校のことですよね?」

吉田先生は申し訳なさそうな顔をして肯いた。

「これ、今の病状です。水沢先生ならわかるかと。高校は行けるのであればこのまま高等科に行きたいです。」

持ってきた封筒を水沢先生に渡した。

「開けていい?」
「はい。」

水沢先生はそういって中を見る。
吉田先生も横からのぞいたが分からなかったのかすぐにこちらを向いた。

「綿月さん、前崎くんって知ってる?」
「前崎、宇詩くんのことですか?」

昨日、急に声をかけてきた男の子を思い描く。

「そう。あの子の友達になってくれない?」
「えっと、何でですか?彼ならすぐに友達を作れそうなんですが。」

彼の雰囲気からすぐに友達を作れそうな感じがする。

「彼、転校生で先週来たばかりなの。それで、クラスの子が声をかけても何も言わないで空を見ているらしいの。綿月さんなら彼の心をひらけるかなって思って。」

想像がつかない。昨日の彼からは。でも彼に何かがあるならそれに私が介入してもいいのだろうか。彼は今のとこ私にしか声をかけてない。なら私しかできない。

「いいですけど、私来週はまた病院に戻ります
それでもいいのですか?」
「あの子なら綿月さんの身体のこと受け入れてくれると思うよ。」
「分かりました。今日声をかけてみます。」

彼のことを想像しながらそう言う。

「宜しくね。じゃあ、何かあったらまた呼ぶかもしれないけど今日のところは終わりね。」

そういって、水沢先生と屋上を去って行った。

しばらくそこで街を見ていたら隣に人の気配を感じた。

「やっほ、沙彩ちゃん。いつもここにいるよね。教室で君のことさがしてもいないんだ。」
「前崎くん。」
「宇詩がいい。呼び捨てね。俺も呼び捨てで呼ぶからさ。あとタメ。」

そういって子供っぽい笑顔になった。

「宇詩?」
「そう。ねぇ、沙彩のこといろいろ教えてよ。」

私のこと...身体のことを話したほうがいいのか...。

「沙彩。」

その時、優しく私を呼ぶ声が扉のほうから聞こえた。

「音唯ちゃん。結翔くん。」

扉には幼馴染の雪村 音唯(ゆきむら ねい)ちゃんと佐賀 結翔(さが ゆいと)くんがいた。

「沙彩、来るなら行ってよ。ゆいから連絡あったときは驚いたんだから。」
「音唯ったら、昨日体調不良で休んだんだけど、沙彩が来たって言ったら明日は絶対行くっていうんだよ。ところで沙彩はいつまで学校に来れるんだい?」

そばに宇詩がいることに気付いてないのかいつも通りに話しかけてくれる2人。

「今週は来れるよ。でも、今回は1週間っていう約束だから来週からはまた戻っちゃうけど...。」
「そっか。あれ?前崎くん。どうしたの?」

今更気づいたのか、結翔が宇詩に話を振った。

「んー?えと佐賀くんだ。別に沙彩と話してただけだけど?」
「そう、佐賀 結翔。よろしくね。こっちは雪村 音唯。音唯はクラス委員長だから何かあったら言うといいよ。」
「なんで、前崎くんが沙彩のことを?昨日からしか来てないし、前崎くんも今月からだから、知らないはずじゃ。」

結翔は私を後ろに隠すかのように前に出て、音唯は私のそばに来る。
宇詩はそんな2人を見て口の端を上げる。

「別に?屋上に来たら沙彩がいたから声をかけただけ。で、2人は沙彩の何なの?」
「俺らは沙彩の幼馴染。沙彩の身体のことも知ってる。」
「身体?」
「結翔くん。宇詩は知らないから。身体のこと。」

結翔くんの制服の袖を引いてそういう。

「言ってないんだ。まぁ、前崎くんは知らなくていいかもね。さぁ、帰ろう。」
「そうね。沙彩帰ろう?前崎くんも帰ろう?校門まで。」

そう言って私の手を引く音唯ちゃん。その後ろを結翔くんがついてくる。後ろを振り向き宇詩に声をかける。

「前崎くん、いこ?」

彼に手を差しだす。宇詩は結翔くんの手を握り、こっちに駆け寄る。
4人は教室に戻り、下校する。