「奥川、じゃなくて……竹森?さん」
「うん」
「結婚おめでとう」
「うん」
彼はこちらをちらりと振り返る素振りも見せずにそう言って、そして車は再び走り出す。
左手に枷がありながら自分を愛した彼と、彼を愛しながら左手に枷をはめようとしている自分と、罪の重さはどちらが上なんだろうか、とくだらないことを考えていたら、ポケットでスマホが着信を告げる。
昨日あの人に言ったのだ。
『明日、海を見に行くからね』
と。
きっと強引なわたしの誘いに思ったに違いない。
真実はまさか不倫相手と海を見に行くことなんて、これっぽっちも思わずに。
ようやく起き出してきた彼からの連絡に、さあなんと返すべきかと悩んだのは一瞬で。
「おーい、奥川さーん」
「何ですか」
「愛してるよ」
舌の根も乾かないうちにまあいけしゃあしゃあと、そんな彼の言葉が耳に届いてしまったものだから、スマホはそのまま、電源を落としてしまった。
おわり
「うん」
「結婚おめでとう」
「うん」
彼はこちらをちらりと振り返る素振りも見せずにそう言って、そして車は再び走り出す。
左手に枷がありながら自分を愛した彼と、彼を愛しながら左手に枷をはめようとしている自分と、罪の重さはどちらが上なんだろうか、とくだらないことを考えていたら、ポケットでスマホが着信を告げる。
昨日あの人に言ったのだ。
『明日、海を見に行くからね』
と。
きっと強引なわたしの誘いに思ったに違いない。
真実はまさか不倫相手と海を見に行くことなんて、これっぽっちも思わずに。
ようやく起き出してきた彼からの連絡に、さあなんと返すべきかと悩んだのは一瞬で。
「おーい、奥川さーん」
「何ですか」
「愛してるよ」
舌の根も乾かないうちにまあいけしゃあしゃあと、そんな彼の言葉が耳に届いてしまったものだから、スマホはそのまま、電源を落としてしまった。
おわり

