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暗闇の中を車のライトが道を照らし、前へ進んで行く。

その景色が、なんだか今の自分の心境のようで…

私は瀬良先生が照らしてくれるこの道を、迷わずに進んで行っていいのかな?

この差し伸べられた手を私は取ってもいいの?

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「着いたぞ」

そう言って車のエンジンを切り、助手席のドアを開けてくれる瀬良先生。

私達は、あれから直ぐに家を出た。

部屋から出るとアイツが倒れていてビックリしたけど、瀬良先生が「ちょっと気を失ってるだけだから気にすんな」とサラッと言って、私のキャリーバッグを持ちスタスタと玄関を出て行くから、私はただ黙って後をついて行った。

本当に大丈夫なんだろうか?

なんだろう?瀬良先生のこの場馴れした感じは…

色んなことが引っ掛かったけど、瀬良先生が余りにも普通にしているから、私もだんだん気にならないようになっていった。

私の家から車で十五分くらいの所に、瀬良先生の住んでいるマンションがあった。

エレベーターに乗って五階まで行き、一番右の端にある部屋の前で瀬良先生が立ち止まる。

鍵を差し込んでから後ろに振り返り、自信が無さそうな顔で私を見た。

「…言っとくけど、単身者用だから狭いし散らかってるからな」

なんか……今の瀬良先生、可愛い///

さっきまで怖くて震えていたはずなのに…

こんな事を思えるだなんて不思議だな。

「気にしませんよ?」

「お前が気にしなくても、俺が気にする」

「じゃあ、私、ネカフェにでも泊まります」

「バカ、そんなわけにはいかねーだろ。もう、腹くくった。入れよ」

そう言って瀬良先生は、ドアを開けて玄関へ私を通してくれた。

瀬良先生の部屋は1DKで、ダイニングテーブルが無く、テレビの前に座卓が置いてあり、壁側にソファーがあるだけのシンプルな部屋だった。

そして…確かに散らかっている。

雑誌や脱ぎ捨てられた服が散乱していて、ソファーは使用不可能な状態になっていた。

「結構、散らかってますね」

「あんまジロジロ見んな///」

「彼女が居ないのが丸わかりの部屋ですね」

「うるせーな///」

瀬良先生はソファーの上の服を掻き集め、脱衣所に持って行く。

瀬良先生…本当に彼女、居ないんだ。

私はホッと胸を撫で下ろす。

ーーーん?

今、私、ホッとした?

あれ?どうしてだろ?

私が悶々としていると、ルームウェアに着替えた瀬良先生が戻ってきた。

グレーのパーカーに黒のラフなパンツ姿の瀬良先生は新鮮で、私はなんだかさっきから変に緊張している。

「お前、腹減ってねぇ?」

「…減ってません」

「マジで?俺、すげー腹ペコなんだけど。流石に生徒のお前と外に食いに行くわけには行かねーし…」

「私は家にいるので、瀬良先生は食べて来てください」

「は?何言ってんの?飯は一緒に食うもんなんだよ」

「ちょっと待ってろ」とニカッと笑った瀬良先生は、スマホを持って廊下へ行き誰かと話し出した。

『飯は一緒に食うもんなんだよ』

そう言われて涙が出そうになった。

長い間、私は誰かと食事なんてしてない。

実の母親とだって…

「どうした?」

話し終わった瀬良先生が戻って来て、私の顔を覗き込んだ。

「何でもないです」

「そ?なんか泣きそーに見えるけど?胸、貸そうか?」

両手を広げて受け入れ態勢を作った瀬良先生。

「い、要りませんっ///」

な、何なのっ///

どうしていいのか分からなくて、涙なんて引っ込んじゃったよっ///

お、落ち着かなきゃっ。

「チャラ男の胸は借りません」

「プハッ、やっぱお前、面白いな」

「何がですかっ///」

「いいじゃん、これからもっと、そうやって本当のお前を出して行けよ」

そう言って瀬良先生は、私の頭を優しくポンポンとした。

…本当の自分。

瀬良先生は私の事、分かってくれてるんだ…

実の母親は気付いてないのに。

そう思うと、複雑な気持ちになるけど、一人でも私の事を見てくれていることに対して嬉しくもなる。

「……///」

「なに照れてんの?かーわいー」

「もうっ!そういうことろがチャラいんですよっ///」

瀬良先生のチャラさのおかげで、少しずつ緊張がほぐれて落ち着いてきた頃、

ピンポーン…とインターホンが鳴った。

「お、やっと来たか」

そう言って、瀬良先生は玄関へ向かった。

誰か呼んでいたのかな?

私みたいなのがいきなり居たらビックリするだろうし、迷惑じゃないのかな?

そう思い、立ち上がって瀬良先生が戻って来るのを待っていると、

「飯が来たぞー」

瀬良先生が、風呂敷に包まれたお重箱らしき物を持ち上げながら戻って来た。

その後ろには、瀬良先生より少し背が高くて眼鏡を掛けた男の人が立っている。

「紹介するよ。俺の友達で神部 龍ってんだ」

「初めまして、藤崎さん」

「は、初めまして」

なに、この人…

めちゃくちゃ綺麗な顔をしてるんだけどっ///

綺麗な黒髪に知的な眼鏡、男の人なんだけど美人って言葉がぴったりな人。

「リュウ、挨拶はその辺にして早く飯食おうぜ」

瀬良先生は余程お腹が空いていたのか、私達が挨拶をしている間に、風呂敷からお重箱を出しテーブルにひろげていた。

「本当に食べることに関しては子供のままですね、雄大は」

そう言ったリュウさんの顔はとても優しくて…

「うるせーな、ほら、藤崎も座れ。皆んなで食うぞっ」

瀬良先生は、私とリュウさんを強引に座らせてから手を合わせ「いただきます」と言った。

リュウさんも手を合わせ「いただきます」と言ったので、私も同じようにする。

「…いただきます///」

なんだか…久しぶりだから照れる。

「何、照れてんだよ。バーカ」

お箸を割りながら笑っている瀬良先生。

「照れてなんていませんっ」

「へぇ、じゃあ、なんで顔が赤いんだ?熱か?俺が看病してやろうか?」

「熱なんてないしっ、あったとしても瀬良先生の看病はいりませんっ///」

「…あははは、二人共、随分と仲が良いんですね」

私と瀬良先生のやり取りを見ていたリュウさんが、楽しそうに笑っている。

「な、仲良くなんてっ、ありませんっっ///」

「そんな、否定すんなよ。軽く傷つくじゃねーか」

「だ、だって…///」

「藤崎さんって、可愛い方なんですね」

突然、リュウさんが、甘い微笑みを私に向けて言った。

「ーーーーーっ///⁈」

「より赤くなった顔がとても可愛いです」

更に追い討ちをかけるリュウさん。

も、もうっ///

恥ずかしすぎるっ///

瀬良先生もリュウさんも女慣れしすぎなんじゃないのっ?

私は熱くなった両頬を手で押さえて冷やす。

「あんま藤崎で遊ぶなよ、リュウ」

「失礼ですね。僕は至って真剣ですよ」

「…あっそ」

「ひょっとして、ヤキモチですか?」

えっ?うそ、瀬良先生がヤキモチ?

「…バーカ。そんなんじゃねーよ。ホラ、腹減ってんだから早く飯食え」

瀬良先生が私の取り皿の上に、おかずをどんどん入れていく。

「ちょっ、そんなに食べれませんよっ」

「食え。お前は痩せすぎ。養護教諭の俺のとこに来たからには健康になってもらうぞ」

「そんなこと言われても…」

「なに?食べさせて欲しいって?」

妖艶な笑みを浮かべて、私に出し巻き玉子を差し出す瀬良先生。

「じ、自分で食べれますっ///」

「そ?残念」

なんて上目遣いで言ってから、瀬良先生は差し出していた出し巻き玉子を、自分の口に入れ食べた。

この日の夕食は、暖かくて楽しくて…そしてドキドキもする時間で…。

私が欲しかった時間を、瀬良先生は簡単に叶えてくれたんだーーー