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「おはよ…ママ」


今朝は珍しくアイツが家に居ないので、私は久しぶりにリビングに入りママに挨拶をする。

「おはよう…もう、ママは会社へ行くわね」

そう言って、リビングを出て玄関へ向かい、ハイヒールを履くママ。

「どうして?まだ会社へ行くには早いよ。一緒に朝ご飯、食べよ?」

私はママの腕を掴み引き止めた。

「離して。いつも食べないくせに、何言ってるのっ。食べるなら勝手に一人で食べなさいっ」

ママは私の手を振りほどき、家を出て行ってしまった。

私は薄暗い玄関でポツンとひとり立ちすくむ。

……どうして?

ママはアイツが居る時は、もっとゆっくり家にいるじゃん。

私と二人っきりだと居心地が悪いの?

アイツが居ないとママも居なくなるの?

……………そんなの、、、

ペタン…と冷たいフローリングに座り込む。

自然と涙がポロポロと落ちて止まらない。

私はどうしたらいいんだろう?

私が家を出たら全てが上手くいくのかな?

私は涙を手の甲で拭き取り、ゆっくりと立ち上がった。

そして、荷物をまとめようと自分の部屋に戻ろうとした時、

ガチャ…と玄関のドアが開く音がした。

ママっ⁈

私はママが戻ってきてくれたんだと思い、勢いよく振り返って玄関を見る。

「…………………」

「おはよう。陽菜ちゃん」

ドアの前に立っていたのは、私が望んでいたママではなく、アイツの姿だった。

私は嫌な予感がして、自分の部屋に逃げ込もうと急いで一歩を踏み出したけど

「どこ行くの?」

パシッといとも簡単にアイツに手首を掴まれ、身動きが出来なくなってしまった。

「は…離してっ‼︎」

怖いっ怖いっ怖いっっ‼︎

腕を力一杯に振り回しても、アイツの力には勝てなくてーーー。

「どうして冷たいの?僕たち、親子でしょ?」

ニヤニヤとしながら、更に力を強めるアイツ。

痛いっ‼︎

どうしようっ、どうやってここから逃げたらいいのっ。

ママ、お願いっ!戻って来てっ‼︎

心の中で強く祈るけど、ママが戻って来るなんてことは無くて……。

「あ、アンタなんて家族じゃないっ!ママと結婚だってしてないじゃんっ!」

私は怯えているのを悟られないように、必死に強気の姿勢を保って言った。

「ふ〜ん…。じゃあ、僕たちが結婚しちゃったらいいんじゃない?」

「な、何言ってんの?」

「そうしよう。僕は君のママなんかより、ずっと、ずっと、君の方が好きなんだよ、陽菜ちゃん」

絶対に頭がおかしいよっコイツっ!

♪♪♪〜

アイツの胸ポケから着信音が鳴って、私の手首を掴むアイツの手が少し緩んだ瞬間、私はアイツに思いっきり体当たりをした。

不意をつかれたアイツはよろめき、壁にもたれかかる。

その隙に私は玄関を飛び出して逃げた。