名前を呼んでも効果なし。


……抵抗して、とか言ったくせに。

それすらもさせてもらえないのって、ズルい。


抱きしめられてるのに、嫌だと思っていない自分に……。



「……泣いてんの?」



そんな自分に、腹が立つ。



「悔しい……っ」



顔を覗き込んできた先輩にそう言うと、先輩は悲しそうに小さく笑った。



「……嫌じゃないんだ?」



睦月と一緒にいる時は、恥ずかしいとか照れるとか、
そういうことを何度も思ったけれど、

先輩は違った。


名前を呼ばれただけで、
触れられただけで、

こんなにもドキドキするなんて。


痛いほど、ドキドキするなんて。




「どうして、そんな意地悪するんですか……っ」