断ることだって出来た。
正直言うと、最初は断るつもりだった。

なるみは俺の初恋の人だったけど、そんなのは数年も前の話で。

その時の気持ちとか、もう忘れてた。


でも、"ごめん"って言おうと口を開きかけた時に、不意に頭の中に浮かんできたんだ。



『高広がいてくれて、良かった』



俺のことを電話で呼び出した、一番最初の時のなるみの顔が。

彼氏と別れたことを俺に伝えた後の、あの顔が。



アイツ、普段強気なくせに、その時だけは、今にも泣いてしまいそうな顔をしてたから。



もし、俺が、なるみのことを拒絶したら、なるみはどうなるんだろうって、思った。


何回も言うけど、放って置けなかったんだ。


器用にみえて不器用だし、人に甘えるようなこともしない。