「少しの間だけお手伝いさん、になってくれないかしら?」



懇願するような表情を見せる有子おばさま。



「え?」



その言葉に。

キョトンとする私。

お手伝い、さん?



「私が、ですか?」

「そう、穂花さんしかいないのよ!」

「あの、お手伝いさんって……お掃除とかのですか?」

「まあ、簡単に言えばそんな感じかしら……」

「あの、でも私、社長……公恵叔母さんの秘書を……」

「それは大丈夫よ、調整できるから」



公恵叔母さんがニッコリ笑って会話に加わる。

「で、でも私。
お手伝いさんの経験はないのですが……」

辞退の意味を込めて返答すると。

そんなことは全く問題にならないわ、と一蹴された。


「す、住み込みもちょっと……」

「あら、違うわよ!
ずっとじゃないの!
少しの間でいいの。
お給料はきちんとお支払いするし、食事の準備も不要。
たまに、軽く掃除したりするだけでいいの。
どうせたいして部屋にいないのだから」



食い下がる有子おばさま。

綺麗な人に迫られると迫力がある。

ガッチリ握りしめられた手はほどけない。


どうしようかと逡巡して、公恵叔母さんの顔を見ると。

好きにしなさい、と言わんばかりの穏やかな表情。



……お手伝い、さん。

取り組んだことのない職業だ。

ましてや、響社長ご夫妻のお宅だなんて。

きっと見たことがないほど豪奢なお宅なのだろうということが想像できる。



私が持っている家事のスキルなんて、ごくごく一般的なものだ。

まさに生活には困らない、といった程度のもの。

両親が共働きの多忙な人達のため、私も舞花も簡単な料理くらいは作れるけれど。

仕事として従事できるような専門的な知識もスキルも全くない。

でも、お手伝いさんという職業に興味はある。

ご自宅で勤務されているお手伝いさんは、きっと私だけではないだろうし。