会食のため直帰します、と隣の席の美冬さんに話すと。

美冬さんは、ポーチを片手に私を化粧室に引っ張った。


「もうっ、もっと早くに言ってちょうだい!
付き添うのだから、綺麗にしなきゃ!」


そう言って美冬さんは私に化粧を施してくれた。

いつも最低限の化粧しかしていない私のためだ。


「……穂花ちゃん、最近スーツ、地味過ぎない?」


美冬さんは私を穂花ちゃん、と親しみをこめて呼んでくれる。

私のことも美冬って呼んでね、と初対面の時に明るく話してくれた。


「そ、そうですか?」


今、着用しているものはグレーのパンツスーツだ。


「似合っていない、とは言わないけれど……地味すぎるわね。
穂花ちゃんが日々努力していることは、よく知っているのよ。
だけど、真面目すぎるわ。
清潔感もきちんとあるし、実用的なことはわかるけど……グレーか黒かのパンツスーツばっかりだし。
もう少し華やかな装いにしてみたら?
我社はフェアリーを始め、様々な化粧品を販売しているのよ?
なのに……必要最低限のメイクしかしていないでしょ?」


痛いところを突かれる。


「理解のため、社員自ら商品を試すこと、装いに気を配ることだって立派な仕事よ。
忙しい、で片付けてはダメ。
……それだけではないでしょうけれどね」


手際よくチークを塗ってくれながら、美冬さんは続ける。


「……穂花ちゃんの外見が目立つことはわかっているわ。
人目をとても気にしていることも。
でもそれは穂花ちゃんが持って産まれたものよ。
大事にこそすれ、隠そうとする必要はないわ」


優しい瞳で鏡越しに私を見る美冬さん。


「初めて穂花ちゃんを紹介された時、何て綺麗な女の子なんだろうって思ったんだから。
もっと自信をもって。
穂花ちゃんは私の大事な後輩なんだから」


美冬さんの気持ちが嬉しくて満面の笑顔でお礼を伝え、お洒落にもう少し気を配ろうと心に誓った。