今まで何処にいたのか、聞きたかった。

帰ってきてくれた嬉しさを、伝えたかった。


嘘をついていたこと。

傷付けたこと。

受け入れてもらえなくても謝罪をしたかった。



だけど。

実際に口から滑りでた言葉は。


「……好……き……」


それだけだった。

その言葉に千歳さんが瞠目して私を見た。

闇色の哀しい瞳に私が映る。


「……何で……今になって……」


苦しく絞り出すような声が聞こえて。

グイッと腕が強く引かれた。

喰らいつくような荒々しいキス。

グッと唇を押し付けられる。


……心が千切れそうに痛くて乱暴なキスだった。

頭の中が真っ白になって、唇に身体中の神経が集中したように感じる。


ドクドクドク、と今まで凍ってしまっていた鼓動が暴れだす。


けれど。

そんな感覚は束の間で。


バッといきなり引き剥がすように千歳さんは私の両肩に手を置いて、身体を離した。

トン、と私の肩口に額をつけて千歳さんは小さな声で言った。


「……ごめん」


今までに聞いたことがないほど、切なくて悲哀に満ちた声。


私を一度も見ないまま。

千歳さんは自宅のドアを開けた。


「身体、壊すからこんな風に待つな」


淡々とした口調で言って。

千歳さんは部屋に入った。


ガチャン、と閉じたドアが。

千歳さんの心のように思えた。


「……ごめんなんて……言わないで」


残された私は。

為す術もなく佇んでいた。