リボンと王子様

「ただいま、穂花」


後ろから千歳さんの声が聞こえた。

反射的に振り返った私の表情は酷いものだった筈。


「道が混んでて遅くなってごめんな。
母さん、ハイ」


有子おばさまに車のキーを手渡す千歳さん。

その態度はいつもと何ら変わらない。


「お帰りなさい。
ありがとう、千歳。
蘭は間に合ったかしら?」


流石の落着きようで有子おばさまは千歳さんから車のキーを受け取った。


……いつから千歳さんは帰ってきていたのだろう。

まさか、有子おばさまとの会話を聞かれてしまった?

話すつもりではいたけれど、まさかこんな形でなんて……。


動揺を隠しきれない私の態度を見て、千歳さんは何かを察したのか、席には着かずに私を促した。


「母さん、悪いけど穂花と先に帰るよ」

「え、ええ……構わないけれど……穂花さん、またね」


チラリと有子おばさまは心配そうに私を見た。


「……はい、失礼します」


有子おばさまにたくさんの気持ちをこめて、頭を下げた。

千歳さんは戻ってくる前に、会計を済ませていたようで、私達はそのままお店を出た。

無言で歩き出す千歳さんに、声をかけた。


「あの、千歳さん。
パンケーキのお金……」


お財布を出して支払おうとする私に千歳さんは首を振った。


「必要ないよ。
俺が誘ったんだし」

「でも……」

「いいから、ね。
ホラ、お財布をしまって」


頑として受け取ろうとしない千歳さんに私はお財布を鞄にしまった。


「……ご馳走さまでした」

「ううん、美味しかった?」

「うん……」