リボンと王子様

振り返った千歳さんが声をあげる。


「蘭?!」

「蘭ちゃん!」


千歳さんが信じられない、と言った様子で目の前の華奢な女の子を見つめた。


「やっぱり、お兄ちゃん。
何してるの?
こんなとこにいるなんて珍しくない?
人混み、嫌いなくせに」


お人形さんのように真っ直ぐな黒髪。

スッと通った鼻筋。

切れ長の瞳は千歳さんによく似ている。

その華やかな容姿をもつ蘭ちゃんは、私を見てニッコリと笑った。

淡いブルーの涼しげなロングスカートがよく似合っている。


「……久しぶり、穂花さん。
お兄ちゃんも」


指を絡めていた私達の手を見つめて察したのだろう、蘭ちゃんは私達が二人でいることを何も追及しなかった。


「今、ママと来ているの。
四人がけの席だし、良かったら一緒にどう?」


お店の混雑ぶりを横目に見ながら、蘭ちゃんが誘ってくれた。

……有子おばさまが来ている。

一瞬怯みそうになったけれど、逆にチャンスだと思い直す。

有子おばさまと話をしたい、話さなければと思っていたのだから。


千歳さんも何か思うことがあったのだろう、反応を窺うように私を見る。

私が小さく頷くと。

蘭ちゃんは、付いてきて、と先に歩き出した。